Erik Bleich "The Freedom to be Racist?"の翻訳書『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』(2014年2月に明石書店より刊行予定)の紹介ページです。

我々が本書の翻訳に着手したのは、周知のようにレイシズムに対する取組みが社会的なアジェンダとなりつつあるからです。大阪の鶴橋、東京の新大久保などで繰り広げられる在特会らのレイシスト団体によるデモ、そしてそれに対するカウンター活動などを契機としてメディア報道も増え、ヘイトスピーチ規制の是非といった議論もにわかに社会的な注目を集めるようになりました。

しかし、このような問題を考えようとしたときに、議論するための素材は決して多くはありません。たしかに、差別やマイノリティの問題について扱う社会学者や政治学者はいます。表現の自由、ヘイトクライムやヘイトスピーチについて論じる法学者の論文や著作もあります。ただし、ヘイトスピーチやヘイトクライムといった問題について、世界の国々がどのような葛藤を抱えながら取り組んできたのかということを俯瞰的にとらえ、今後の議論に供するための書物はあまりに乏しいというのが現実です。この点で本書は、バランスの取れた書物であり、翻訳する価値があると考えました。

とはいえ、我々翻訳者の中には残念ながらレイシズムやヘイトスピーチに関する厳密な意味での専門家は一人もおりません。この点で、翻訳作業が思い通りに進まない場面がすでに生じていることも、あえて正直に申し上げておきましょう。さらに言えば、翻訳作業も中途であり、まだ刊行もしていない書物について、このようなHPを立ち上げてご紹介することはいささか滑稽なことかもしれません。そして何より、現時点でもヘイトスピーチ規制の是非といった核心的な問題についてさえ我々は何らかの合意を形成するには至っておりません。

しかし、そうした葛藤や戸惑いも含めて、我々が翻訳に取り組んでいるということを現在進行形の形で記録に残し公開しておくことは、このような問題に関心のある人々と「レイシズムやヘイトスピーチに対して果たして何ができるだろうか」という問いを共有することに役立つものだと考えています。公刊自体はまだ先の話ではありますが、このHPが問いをより深化させたり、何かのアクションへと結びつけたりする一つの契機となることを願っています。

2013年6月 翻訳者一同